盛岡発「ハンテンボク」の山づくり
〜早生広葉樹による新しい造林・育林・利活用の推進〜
令和8年度 盛岡市森林づかいイノベーション事業(森林環境譲与税を活用)
プロジェクトの目的
ユリノキ(ハンテンボク)を旗印に、北東北で育てられる早生広葉樹による山づくりを進めます。 取り組みの柱は、次の3つです。
- 1ユリノキを旗印として、北東北で育てられる早生広葉樹の知見を蓄え、技術を確立すること。
- 2ユリノキをはじめとする早生広葉樹の苗木生産・造林・収穫・利活用を進め、広めていくこと。
- 3ユリノキそのものの認知を広げるとともに、街や人との関わりあいを探り、森林や山づくりのことを一般へ発信していくこと。
造林から収穫までに長い年数がかかることは、林業経営にとって大きな制約です。 成長が早く、通直で、材としても使える広葉樹を選択肢に加えられれば、 山を持つ人・育てる人の判断の幅は広がります。 この事業では、苗木づくりから植栽・育林、木材や蜂蜜などの利活用までをひと続きに実証し、 新しい造林樹種としての普及を目指します。
目指すこと
- 技術と知見が、手順になる。北東北で育林できるだけの技術と知見を蓄えたうえで手順を整え、発信の拠点になること。
- 造林樹種として、指定される。造林業者がユリノキを選べるよう、県内で造林樹種としての指定を受けること。
- 盛岡の木として、根づく。「ユリノキ(ハンテンボク)といえば盛岡」と思い浮かべてもらえる結びつきが育つこと。
6つの取り組み
種採りから、木を使うところまで。
種子の確保
すべてはここから始まります。盛岡市内を中心に、種子をつける母樹の調査・把握を行い、 発芽率の良い種子や実生を集めます。
- 市内の母樹の調査と把握(どの木が、どれだけ実をつけるか)
- 採種の時期・方法の見きわめ
- 発芽率の良い種子の選別
- 実生の採取と育成
苗木づくりと普及
ユリノキは挿し木・接木がほとんどできません。集めた種子と実生から、 どれだけ確実に苗木を育てられるか。ここがこの樹種の普及を左右します。
- 発芽率・生存率を高める育苗技術の確立
- 量産と安定供給のしくみづくり
- 造林業者への周知、販路の開拓
造林・育林
市内に複数のモデル植栽地を設け、寒冷地・積雪地でユリノキがどう育つのかを実地で確かめます。 目指すのは、手のかかりにくい山。下刈りの回数を抑え、枝打ち・間伐を省ける施業を探ります。
- 適地の選定(日当たり・排水・風当たり)
- 植栽密度と植栽方法の確立
- シカ・ノウサギ等への食害対策
- 下刈り回数の抑制、枝打ち・間伐の省略
- 成長量の追求と短伐期の実現
- 造林業者との連携、造林樹種指定に向けた働きかけ
データの蓄積と基礎研究
造林樹種として認めてもらうには、「良さそうだ」ではなく「データがある」状態が欠かせません。 成長量や材の性質を、研究機関と連携しながら科学的に確かめていきます。
- 成長分析(経年データの取得)
- 市内の賦存木調査(どこに何本あるか)
- 木材の物性・材特性の把握と標準化
- 蜜源植物としての有用性の検証
- 葉・花・樹皮・香り成分などの特性
- 生態系への影響、風倒リスクと災害防止機能
- CO2固定能力の評価
- 既存研究の整理・統合(主に成長・木材)
利活用と商品開発
育てた木は、使われてはじめて価値になります。 木材としての利用に加え、蜜源やきのこ原木、炭素クレジットなど、木以外の価値もあわせて探ります。
- 剪定・伐採木の確保から、試験・製材・加工へ
- 既乾燥材の探索と試験加工
- 材特性の標準化、歩留まりの向上、適材適所の商品開発
- 製材・加工業者との連携、技術の確立
- 蜜源・はちみつ(養蜂関係者との連携)
- きのこ原木、飲料の風味付けなどの副次的用途
- 炭素吸収(J-クレジット等)としての価値化
普及・啓発とブランディング
街路樹として毎日その下を歩いている人が、名前も可能性も知らない。 そのすき間を埋めていくことが、この木を「盛岡の木」にする近道だと考えています。
- ウェブサイト・SNSでの発信
- 「もりおかハンテンボクマップ」の作成・公開
- 市民向け講演会の開催
- 種取りイベント・観察会などの環境教育プログラム
- 文化・歴史・景観に関する資料の収集
- 業界向けの認知拡大、有用性の発信
ロードマップ
「データ収集・研究」から「試験・実証」「手順の確立」「量産・実用化」「収益化」へ。 年度を追って、段階的に進めていきます。
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令和8年度(2026年度)— 立ち上げと基礎データ
会の運営体制の確立。市内2〜3か所(各0.5〜1ha)のモデル植栽地の選定。苗木生産計画の策定。 岩手大学との共同研究の準備と基礎データの整備。環境教育プログラムの開発。ユリノキ材の利活用ポテンシャル調査。
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令和9年度(2027年度)— 試験・実証
モデル植栽地での成長データの蓄積。育苗技術の試験と改良。食害対策の検証。 材の試験加工と用途の絞り込み。蜜源としての実地検証。
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令和10年度(2028年度)— 手順の確立
造林・育林手順のマニュアル化。苗木の量産体制づくり。 造林樹種指定に向けた資料の取りまとめと、関係機関への働きかけ。
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令和11年度以降 — 量産・実用化と収益化
苗木の安定供給と販売。造林地の拡大。木材・はちみつ等の商品化とブランディング、高付加価値化。
※ ロードマップは現時点の計画です。実証の結果や関係機関との協議によって見直すことがあります。
造林樹種としての、全国の動き
造林補助の対象樹種は、スギ・ヒノキなどの主要樹種に加えて「知事が特に必要と認めた樹種」とされています。 県が造林適性を認めれば、ユリノキも対象になりえます。実際に、先行する動きも出はじめています。
| 地域・主体 | 位置づけ | 根拠・補足 |
|---|---|---|
| 大分県 | 施業指針あり先行する事例 | 大分県林業試験場「ユリノキの森林育成技術」(平成9年3月)、大分県「ユリノキの施業指針」(平成13年7月)を策定。両資料は2024年2月に県ホームページで公開されています。日田市には20年生前後・1,000本/haの疎植によるモデル林の実績があります。 |
| 宮城県 | 補助対象化を検討指定の一歩手前 | 「スギ花粉発生源対策推進プラン」(計画期間 令和2〜14年度)に「県は、造林適性が認められた早生樹を造林補助対象樹種として認定し、その樹種の造林の推進を図る」と明記。注釈で早生樹の例にユリノキを挙げています。 |
| 東北森林管理局 | 国有林で研究中 | 技術開発課題「早生樹(ユリノキ)の更新特性等と需給実態について」(令和5〜9年度)。平成28〜令和2年度の研究で、東北地方でもユリノキが良好な成長を示すこと、萌芽更新力が旺盛で伐採後の天然更新が容易であることが確認されています。一方で、種子の飛散距離は最大約90mとされ、周辺森林への分布拡大について検証が続いています。 |
| 静岡県 | 材質研究 | 静岡県立農林大学校が57年生材を試験。2年間の天然乾燥後、動的ヤング係数は平均10.8GPa(JAS表示等級E110相当)で実用可能と評価。ねじれ(平均9.8mm)は今後の課題とされています。 |
宮城県の試験植栽データ(大衡村・平成29年度植栽 → 令和5年度調査)
寒冷地でユリノキが育つのかどうか。その問いに対する、もっとも近い実測データです。 供試された早生樹のなかで、ユリノキは高い生存率を示しました。
| 樹種 | 植栽密度 | 生存率(令和5年度) |
|---|---|---|
| ヤマハンノキ | 1,600本/ha | 100.0%(10/10本) |
| ユリノキ | 1,600本/ha | 76.7%(23/30本) |
| チャンチンモドキ | 1,600本/ha | 36.7%(11/30本) |
| コウヨウザン | 1,600本/ha | 30.0%(9/30本) |
| センダン | 1,600本/ha | 20.0%(6/30本) |
出典:宮城県林業技術総合センター普及・研修部「【参考情報】早生樹の植栽について」(宮城県林業技術総合センター業務資料より作成)。 原資料には「母数は少ないものの」との但し書きがあります。樹高成長はユリノキで年1.2〜2.3m、スギの2倍程度と報告されています。 宮城県では、東北森林管理局仙台森林管理署・林木育種センター東北育種場・県林業技術総合センター・民間企業の四者による早生樹の共同研究が、第2期(令和10年3月まで)として続いています。
岩手・盛岡にとっての意味
先行する大分県の施業指針と、宮城県の補助対象化の方針。 このふたつは、県内で造林樹種としての認定を求めていくときの手がかりになります。 一方で、岩手県が独自にユリノキを指定した公的文書は確認できていません。 だからこそ、用途と適地を絞った小規模な実証から始め、データを積み上げて指定につなげていく。 そういう順序で進めています。
事業概要
| 事業名 | 盛岡発「ハンテンボク」の山づくり 〜早生広葉樹による新しい造林・育林・利活用の推進〜 |
|---|---|
| 実施主体 | もりおかハンテンボクの会 |
| 補助事業 | 令和8年度 盛岡市森林づかいイノベーション事業(森林環境譲与税を活用) |
| 事業期間 | 交付決定日 〜 令和9年3月31日(連続3年度を限度。採択は単年度ごと) |
| 共同研究 | 岩手大学農学部と共同研究の締結を準備中 |